その爆撃は、快晴の昼日中にあった。

 

 彼の、右足だけが瓦礫に散っていた。

 

 軍靴はいやだと。

 さりとてはだしも気に食わないと強いて彼が言って探して来させた、その靴を、砕蜂が見紛うはずもなかった。

 埃色の瓦礫のなか、中身の入った靴だけ。ただそれだけが、冗談のように鮮やかに視野を穿つ。途切れた踝は、その先の主の所在を語ることを拒んだ。世界のただなかで、それだけが色を持つのに、どうしてもそれは砕蜂の中で像を結ばなかった。

 (こんな筈はない)

 彼は非戦闘員だった。こちらの陣営の人間ですらなかった。常に音を奏で、夢を語っていただけだ。ただ、砕蜂に飼われていたという、それだけで。瓦礫の下を探る部下に歩み寄る。彼ではないだろう、と意識せぬままに声をあげようとして、踏み出した瞬間響いた音に、我に返った。何かを踏み割った。足下に散らばる、空のアンプル。精製モルヒネだ。衛生班が残したものだろう。強烈な鎮痛剤、それを必要とする重傷者が、大勢そこにいる。

 保護すべき重傷者が大量にいて、捜索を含めた事態の総責任者は己以外にはない。

 「使用人」ひとりにかかずらっていてはならない。ただ一人の名を呼び、彼ではない、そんな筈はないと叫ぶ前に、成さねばならないことが山をなしている。喘ぐように独白して、踵を返した。

 (―――此所にいた、だけなのに)

 

 此れは間違いだという思考が、頭を離れずその先に進めない。

 それでもなお、事実上の総指揮官たる砕蜂のもとには日常業務も被災対応も怒涛のように押し寄せる。それらに忙殺されるうち、東仙の右足は安置室で、他の遺体たちとともに静かに腐っていった。

 砕蜂が、かろうじて着けさせた身元証明のタグは、靴から素足へつけかえられ、やがて肉の落ちた親指に針金で縛りつけられた。その様が網膜を通して思考に皹をさすので、砕蜂は埋葬申請に署名することができない。腐汁で黒くくすんだ認識票は、赴任してこのかた珍しいものではなくなっていたというのに。

 

 爆撃は続く。

 部下も市民も随分減って、遺体処理のような末端業務は滞るようになっている。

 "モルヒネの夢はたいそう甘美だというぞ。その証拠に手脚を吹っ飛ばされてそれを打たれた奴らはモルグに入ったきり戻りやしない"

 "いやいや、モルヒネがあれば、足が吹っ飛んでも剥き出した骨をついて動き回れる"

 "だから死んでも気づかず、埋められもせずに、地下で働いてるってか"

 "さてな。何なら試してみたらどうだ。そろそろ将校どもの掘った墓坑に入れるかも知れんぞ"

 "奴等の坑ならさぞ脆かろう"

 "なに、かわりに四隅は定規に使えるほどに見事な直角よ"

 そんな軽口が士官候補生たちの間で囁き交わされるほどに。

 面白くもない皮肉と笑い捨てながら、砕蜂はそれに耳を傾けずに入られなかった。

 己が手で彼の末路を拓き、閉ざすことで東仙の思い出に終止符をうつことが出来るのではだろうか、と。それが、涙も葬送もゆるされない砕蜂の悼みになり得ただろう。

 無論、夢想は現実とはなり得ず、結局右足は略葬にふされ、他の身元不明遺体とともに郊外に埋められた。

 砕蜂はその一切に関わることができなかった。時を同じくして、最後の撤退命令がおりたために。

 何も残されていないにも関わらず、移転処理は煩瑣を極めた。十日前なら書類一枚ですんだことが、今は声を枯らして指示を飛ばさねば進まない。そうして、疲れきって自室に戻っても。

 (奴がいない)

 音楽も。砕蜂のためだけにある灯も。

 決して哀しんでいるわけではなかった。彼を喪ったとて、砕蜂の判断にもその意思にも何の瑕疵も生じ得ない。 ただ、喪失感だけが凝る。

 (……輪を狭めるために、認識票を捩るその針金が。あおぐろく腐った、奴のあしを抉りとる)

 喪った、という事に痛痒さえなく、しかし思考は堂々巡りする。前に進めない、と耳の奥で訴えるこえがする。ただ、それを容れる余裕などなく、撤退計画に判をついた。

 

 

 

 埋葬も満足に行えぬまま、砕蜂と軍部は南へ後退する。

 (宴に、伴う約束だった)

 煤けた街並みを横目に、サスペンションの利きの悪い四輪に揺られて思い起こす。

 

 装甲車の司令室に乗り合わせたのは6名。今は閉ざしたままの隔壁の向こうに、操縦士が2名いる。有事にはこの隔壁に覆われた狭い空間がそのまま司令室になるから、ディスプレイも電信装置も そろう。代わりに、弾薬は少ない。

 その誰もが、口を開かずにただ時間をやり過ごしている。なすべきことは山とあったが。ただ、レーダーの単調な音は耳の奥にある憂鬱さばかりを刺激する。

 敗退という拭いようのない恥辱が隊列に圧し掛かっていた。 高揚などなく、さりとて葬列の厳粛さもなく、隊列は這うように進む。風は乾き、うねるような山脈の道を上るにつれて、それは温度を下げていくだろう。目指す先は、高原の都市遵義に位置する0514、規模は大きいが、旧式の設備と管理者を抱える肥りすぎた獣のような場所。半壊した旅団をいくつも受け入れて、ますます動きを鈍くしているとも聞く。

 そんなことを考えながら、誰もが、この数ヵ月の間に馴染んだ倦怠感に身を委ねていた。

 

 ―――その瞬間までは。

 

 

 

 「―――敵機!後方八時、高度3千…」

 「機数報告!」

 一瞬にして通信機器が沸き立つ。

 「A-178地点だ!全体全速!!」

30分以内に辿り着ける拠点は、そのひとつしかない。それも、小さな塹壕をいくつか有するだけの古い砲台で、駐留軍はとうにいない。

 「散開せよ!」

 列を崩し、布陣して照準を定める。その間、おそらく20分。友軍の航空基地まではまだ300kmある。砕蜂が棄てた基地のレーダーは遺棄せざるを得なかった。探査距離からいって、こちら側で最初の感知がこれだったと考えるのが妥当だろう。ならば、友軍はまだ機影を捕捉できておらず、応援は期待できない。状況を打信し要請しても、敵機の到着のほうが早い。

 (間に合わん)

 敵機の射程距離に入るまで、報告をもとにすればあと25分。発見は、無論はるかに早い。既に捕捉されている。

 失われた部下と時間が今更に惜しかった。十分な訓練さえあれば、半分の時間で布陣できたものを。敵機の目標は、よもやこの旅団ではなかろうが、頭上を通過するそれを見過ごすことはできない。とはいえ、撃破するには、圧倒的に火力が足りない。

 無線機から響く、兵卒のうろたえた声を聞きながら、最適策を択ぶ。

 遺棄された砲台は、大陸南部特有のなだらかな山岳を利用したもので、内陸高原とこの平野部を隔てる二つの山脈の切れ目にあたる。隘路をまもるに、山肌を削り城塞に仕上げた古い仕様は、航空機の登場とともに廃れ、棄てられた。

 南側斜面に指令室と旧式の砲台を配した陣形は、航空機を相手にすれば背中を丸裸にしたも同然。

 

 南側斜面、右翼に対空砲と給電車と。兵員輸送車が次々と奔る。

 (物量が圧倒的に足りない)

 わかりきっていたことだ。

 「―――一個中隊!30機です!」

 報告に、全隊に戦慄が走る。

 「ばかな、都市制圧の規模ではないか」

 「狙いは、遵義か…?」

 砲隊指揮官が呟く。その通りだ、死に損ないの旅団など、その半分で十分。制圧し掌握すべき基地すら持たない、

 (殲滅のつもりなのか)

 この規模ならば、必ず陸上隊がいる。航空部隊が彼女らの上空を素通りすることはあっても、陸上隊は行く手の障害を決してみのがさないだろう。そちらも、捕捉できていない。

 

 沈黙は、全隊の絶望を映したものだ。

 「……斥候だ。816隊、822隊、迂回して東下せよ。

 詳細は指示の通りとする。決して捕略されるな」

 「軍団長!?」

 「―――報告は、0514基地にて待つ」

 瞬時、静寂が落ちた。

 合流するな、と。今この軍団長は自軍の絶命を告げた。帰る先は、彼女の軍ではないと。

 誰も、反論も感嘆も漏らさなかった。砕蜂がそう育てた部下ばかりだ。

 昨夜、件の2隊には任務を伝えてある。

 

 万一の際には単独での斥候任務を命ずる、と告げた2隊の隊首は、真摯に砕蜂を見返してきた。

 『―――軍団長は、我等に死ねと仰せになりますか』

 夜半、作戦会議のあと改めて2人を執務室に呼び、任命を繰返した。

 互いが互いを援護するしかない斥候は、敵軍に肉薄するだけに危険も大きい。否、これだけの劣勢条件のもとでは、任務完遂の後生き残りうる可能性は零に等しい。

 砕蜂はその視線を受けとめて、然り、と言った。誰も死なぬ作戦を立てられる戦況ではない。それでも望まぬ者に死を命じたくはなかった。

 『不満か』

 視線をそのままに、ただ聞けば、厳しい顔が綻んだ。

 『いいえ。光栄に思います』

 『貴女の命にて死ぬことを』

 眩しいほどに、澄明な笑顔だった。彼らの軍団長は、もはやそれに応える手段を持たないというのに。

 

 恃む、と、肩に触れて絞り出すことしか出来ない。すまぬ、生き延びて、凱旋させてやりたかった、という後悔は、彼らの思いの前には不純物でしかない。

 『拝命致します』

 「―かぐろき旗の下に」

 昨夜と同じことばが、無線機から響く。

 「我等が、党旗の下に」

 無線機を置けば、己に集まる視線とかち合う。

 「軍団長、」

 「我々とて、とうに覚悟は出来ております」

 「剄られようと、党旗と御名を汚すことは致しません」

 死してなお、という精神論は砕蜂のもっとも厭うところで、それは理性と教理を貴ぶ党規にもある通り彼らが入団してこのかた繰り返されてきた基本原則だ。そんな言葉に酔うくらいなら、より精緻な策をと、常に言い聞かせてきた。それすら擲つほどに、彼らは高揚している。

 (あと15分)

 何も、残されていない。彼らに応える術は、何処にもない。

 異様に光り血走った目。こけた頬と土気色の肌。その下には、戦況に対する絶望がある。そんなところまで、砕蜂は彼らを追い込んだ。

 「―とうに、わかっている」

 ひとりひとり、目を見返して、ことばを綴る。彼らが望むもの、それは自分もかつて望んだ何かだ。望んで叶わなかった―――

 「貴様らの覚悟、忠誠、」

 見つめる瞳から、彼ら自身の血の熱さが寄せる感覚。そんなものは幻想であるとはいえ、幻想によって掬われるのならば、それを望んで何に障るという?否、その幻想以外に、何もないのだ。

 「我等が義は、証されよう」

 握り締めた拳に、己の爪の硬さを感じる。何もつかめず、握り固めるしかなかった拳。その爪の一片までも、かつて神と呼んだ党首のために在ったはずだった。棄てられる、その日まで。

 「我等、この地に斃れ伏そうとも、その名は歴史に刻まれよう。

 我等が屍が地を覆おうとも、党旗はその血の上にいつの日にか耀かん」

 ただ、見つめる彼らのその死に、意味を与えたかった。 犬死ではないと。

 「そして、わたしは貴様らの死の全てを、この身を以て讃えよう。流した血のその一滴たりとも漏らさずくちづけよう。貴様らの死にわたしは額づく。わたしは永劫、貴様とともにある」

 ―――貴方のために、死にたかった。

 

 「この一戦、その一命にかえて党に捧げよ!」

 応えた声は、咆哮に近かった。

 誰かの意を受けた 伝令兵が開けておいた伝声管からも、歓声が聞こえる。

 「一機たりとも、撃ち漏らすな!」

 応、と誰もが狂乱のなかにある。にわかに勢いを増した電信が、次々と砲台設置完了の報告をあげる。

 ただ後方基地を相手にする通信兵だけが、ひたすらに解析と打電を繰り返す。

 (あと、3分)

 解析班が、続々と敵機の陣形を描き出す。それを承けて砲手に指示を放つ部下たちも、かつてないまでの即断と協調を見せる。

 (2分、)

 あと2分で、敵機の射程圏内に入る。こちらの射程距離は、さらに短い。

 (遠距離射撃砲台があれば)

 先制も可能だったが。 もう一度、周囲を眺め渡す。日没までに、このなかの何人が生きて、動いているだろうか。或いは、何人が胸の紀章を掲げ続けているだろうか。

 「―あと1分で射程圏内です」

 警告は、高揚を少しも損なわない。ただ、今や馴染みきった緊張感が、装甲車の空気を尖らせる。誰しもが、そそけだった凄惨な表情をしている。

 「進路を見誤るな」

 彼らは、こちらの火力の欠乏をとうに把握している。

 「射角算出完了致しました!」

 打電の音だけが車内を圧倒する。 医療隊指揮官が蒼白な顔で無線機を握りしめたのが見える。その、真白い腱の浮く、その手のかたちさえ、網膜に焼き付く心地がした。 彼が、この半年で何を無くしたか知っている。彼の握る無線機の向こう、砲手たちの戦慄く唇の色さえ。

 (明日には、)

  もう同じかたちではない。それでも彼らを知っている。

 

 

 「―――――」

 

 漸う、装甲車は砲台の南壁司令室に辿り着く。 使われぬ間に蔓延った若木が、車両の外壁を掻いて耳障りな音をたてる。 司令室とは言え、実質は望台に過ぎない。過去には僅かに斜面に張り出した台地を、掘削し幕府を置いたという。

 (視界は、悪くない)

 この季節、低地を覆う靄はない。少なくとも幹線を北上してくる寄せ手と自陣を、一望しつつ指示を出すことができる。断崖は岩盤が露出するか背の低い灌木に覆われるばかり、頭上に対しては丸裸に等しいが、 布陣した自軍の動きがよくわかる。となれば、無線も途切れずに済むだろう。

 (いや、そんな猶予も無いが)

 陸上隊が到着すれば、妨害電波を寄越してこようし、そもそもいつまで指令のやり取りが可能な状態にいられるか。 錆びた支柱だけを残す張り出しに、装甲車は背面から突入する。背面の防護覆板を格納すれば、小さいとはいえ硝子窓から台地を見下ろすことができる。視界は狭いが、重要なのはそのしたに設置した探査機器類だ。

 「―射程範囲、」

 まだ、撃ってこない。

 「降下開始!!予測進路より2度南」

 敵機隊は急降下通過ではなく旋回して精密射撃を企図している。

 「舐めた真似を」

 絞り出すような声を誰かが出した。相手陣営の上空に長く留まろうというのは、精密射撃の前提としては正しいが、編隊が同じ進路をとる編成爆撃においては、本来自殺行為に等しい。

 ―――撃ち落とされない自信はどこから来る?

 此方の射砲に耐える装甲を備えているのか、変則的な進路選択が可能なのか、あるいは此方の物量の少なさを余程見くびっているのか。 対する此方は、砲弾の火勢と編隊規模を知るだけだ。 彼らは、市街地への絨毯爆撃を躊躇わない。それは、精密射撃を不得手とする彼らの特性ゆえだと思っていた。だから、此方は飛来する第一陣は最低限の砲撃を以て迎え、進路を確定した上で迎撃し応援を待つ、と。航続距離の長さとと物量に飽かせて杜撰な攻撃を繰り返す相手に、切っ先だけを触れ合わせて逃げ切ることができようと、そう践んだが。

 その、前提が誤っているとしたら? 第一撃にもしも、―――

 「……だ」

 閃きは、思考よりも先に指示となってこぼれた。

 「は、何と?」

 「修正!! 丁案撤回!丙の修正指示を出せ!」

 「―全軍砲撃体制変更!!」

 砕蜂の声に弾かれ、伝声が飛ぶ。呆気にとられたように視線を向ける司令室のなか、観測ディスプレイに機影が大写しになる。 炮艙が、一瞬揺らぐ。

 「―――敵機先頭、投下開始しました!」

 「着弾させるな!!」

 物資不足のために弾幕は薄い。わかってはいても、叫ばずにはいられなかった。 芥子粒のような黒点が空に散る。

 「左翼964隊、迎撃不能―――」

 「着弾しま――――」

 「退避!!」

 怒号は到底届かず、 閃光。

 山腹の指令室までを刺す強烈な光に、砕蜂がおもわず腕をあげる。 ―刹那、車内の声さえかき消す轟音が。

 目下の砲台上空から、注視するその先で爆炎が吹き出す。五月雨とみまごう膨大な数の砲弾は、着地を前に此方の発射弾に爆破される。その爆発が連鎖的に広がるさまは、さながら緋色の瀑布のようで。ただ、それは地上に布陣する自軍の視界をふさぎ、兵士の肌を焦がすのだ。

 呪詛を込めた視線の先、爆風に煽られて体勢を崩しつつも、白い機影は緩やかに上昇する。進路で待つ護衛機が自軍の弾幕をすり抜ける。否、基部を掠めた砲弾は陽光のなかあるかなしかの光を弾いて、しかし機体を傷付けるには至らずに飛散する。砲弾の有効性が桁違いなのだ。間断なく被害報告が続く。

 爆煙を透かして、異様な色の炎が。 自軍の最東端、砲火に遮られたその先、大地がいくつも抉られているのが見てとれる。

 (なんだと)

 「なんて威力だ……」

 着弾したのは第一群の、多くて3割。それが、この惨状をもたらした。

 「第二群、北上!!高度1500」

 観測手が、進路を読み上げる。描く航路は先程よりも山脈南壁寄り、大きな弧を描いて帰投するはず。

 「進路予想算出」

 「急降下、」

 「偵察機2機、附随」

 「最大接近ポイント算出」

 砲手が示した弧は、まさにこの司令台の間近を通過する。

 (いい読みをしている)

 いっそ皮肉な笑いさえ溢れる。 地上両翼から放弾すれば、砕蜂の肩を掠めて標的を狙うことになるだろう。

 「……近すぎます……!司令部の被弾率が高過ぎる」

 「構わん。 流弾程度なら、耐えられる」

 「退避経路を――」

 「要らん」

 言葉を交わす、この間にも機影は大きくなる。陽光を背に、こちらが狙うそれは針の目にも等しい。

 「撃たせろ」

 「左翼8隊、撃て」

 砂埃をあげて迎撃砲が火を噴く。遅れて湧き出す砂埃が、見る間に大地を多い尽くす。起伏に沿って展開する砲首が、櫛の歯を欠いたように疎らなことに耐え難い痛みを感じた。

 「……次群の敵機の主力は投下ではなく、機関掃射と思われます」

 (わかりきったことだ)

 彼らは山肌すれすれを 通過して、此方の位置を探る。

 (その前に撃ち落としたい)

 迎撃砲の軌跡は見えない。

 (当たってくれ)

 初めてのように、祈る。絶対にかなわないという読みがその裏にあると、自ら知ってさらに焦燥を感じる。

 (数機なりと、傷つければ)

 敵軍に対する打撃とならなくとも、この場さえ逃れ得れば。