己の上で動く男の匂いに包まれ乍ら、ひどく醒めた自分を自覚している。汗ばんだ熱い背に触れて、しかし男もそうなのだろうと想う。二人はこの行為に溺れ切りはしない。(できない互いを知っている)
 男を憐れに思うのは、自身が全てを忘れてそれに溺れられたらと希っているからだ。振り捨てたいものがありながら、それを手放せずにいる両腕を持っているからだ。それを擲って男の背に爪を立てる夢想は、いつも夢想に終わる。
 ただ、絡め取られて身じろぎもできぬ、熱い背が哀れで仕方なく、それを掻き抱く。(それは単なる自己憐憫だ。己を慰めることのできないおとなは、己を他者に仮託して、他者に慈しみを与える。お互いにそればかりで、二者の距離は一向縮まらないくせに、ある種の錯覚は得ることができる)
 そのうちに此彼の境が無くなって、憐憫なのか快楽(けらく)なのかわからなくなるのが、

 唯一自分が彼が授受できる、救いに似た何かだ。



 そうして、夜着を羽織る背中に傷ひとつないのを確認する。