奴は、大切な日に休んだためしが無かった。
それを責任感のゆえだと思うのは、間違っている。多分。奴は、ただ自分に許していないのだ。許された日に、死者を思い出して悼むことを、思い出に浸って安らぐことを。
喪失は奴の原理ではあるけれど、立ち帰ることの許されない聖域として描いている節がある。理想というその未来を叶えられぬ己に、清浄なその場に赴く資格はないと。
「墓参りに、行かんのか」
一度、そ知らぬふりで訊ねたことがあった。
奴は常の通り、憂いというには厳しい表情でこちらに面を向けた。
これで見透かされたようだ、と動揺するのは入りたての新人か、いつまでも物慣れぬと言うかなれぬままにこやつを祀り上げてしまった副官ぐらいのものだ。
「……それは、彼女に親しい人たちのものだよ」
「貴様はそうでないというのか」
この男のこんな苦行僧めいた頑なさを少し哀れんでもいいのだろうか。
―――それは私に許されるだろうか?
同じように縋った手を解かれて、そのまま握り固めただけのこの手をもつ自分に。
(東仙と砕蜂 諦めない者と諦めた者)
「…明けない夜はないんだよ」
自身に向けて呟く。
希望はきっと、光のかたちをとってやってくると思っていた。絶望はさかしまに、闇に向かって落ちてゆくことだと。だから己のいるこのばけものたちの世界には、永久の夜しかない。
なのに。
あたしの世界の終りは、闇が払われてしまうことだった。
(ウル織)
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