そのかたちを、覚えている。

 

その膚も、その声も。何処をどうするのが好きなのか、その身体が、どんな風にしなって、どんな風に達するのか。伽羅のように芯があって、その癖まごうかたない血肉の、彼女の香りを纏わらせて。

彼我の境が分からなくなるほどにいとおしんでよくなって。

(なのに失くしたからだ)

どうしようもなくて、懐かしくて、恋しくて欲しかった。

(この手に何も残っていなかったから)

 

だから、先に欲しいと思ったのは砕蜂だ。

そんなタイミングだったから、としか、この行為の理由を解くことができない。

(タイミングさえ合えば、そんな風に許してしまえる存在だったのか)

砕蜂はその思考を身体の熱さで塗りつぶす。考えたくもない。そんな筈もない。

性急に男の帯を解いてしまえば、後はどうせ繋がるだけだ。そう思ったのに、奴が殊更に丁寧に身体をまさぐるから。

「…っ」

下着の線を手の甲でなぞられて、腰が跳ねる。誰にも明かしたことのない場所を、暴かれる―――違う。これはかつて触れた快感に擬えてその反芻に酔っているだけだ。だって覚えている。内腿に触れるあの指を。唇を。今はどうあがいても手に入らないのに。

肉厚の唇が皮膚の薄いところに執拗に触れてきて、膝が震える。迎え入れたくて、その手をとって指の間にくちづければ、それでもやはり柔らかい女の膚ではない。

ただその刺激を享受しているだけだと思いたくて、全身で男の身体を締めつけた。幅の狭い頭骨を引き上げて、唇で、耳朶をなぞる。緊張した背中を、掌で味わう。

 

きもちよくなりたいと思って触れ合っているというのに、自分の体は相手を喜ばせる術ばかり覚えていて。嬌声さえも、相手に阿るためのそれのようで、己に嫌悪を抱く。身体の熱さは増しているのに、触れるものは何もなくて穴の開いたような意識を持て余している。

 

ほしいものは欲しいと言え、と。

彼のひとはよく笑って口にした。砕蜂の手を導いて己の手を止めて、どうして欲しい、とよく砕蜂を焦らした。そうしておいて覗きこんで来る潤んだ瞳と。呼気の熱さと。膚の下で響きあう鼓動と。欲しいのはそういうもの全てだ、と伝えたくて伝えられないもどかしさは、今もこの胸のうちにある。

(なのに貴女はいない)

哀しさは、そのまま身体の芯の熱さに凝って涙になる。薄暗い灯火の下、いっそう視界が滲む。

(欲しいのは―――)

貴女だ、と求める言葉は、ただ、唇の戦慄きになって零れる。執拗にかたちを確かめていた指が呼び声に応えて這入ってきたとき、砕蜂は達した。

(夜一、さま…っ)

 

 

己の声に身体が震えた瞬間、涙が眦を決して流れた。


Bad Porn Film  × Fell into Possessed Babe

 

 

 

泣き虫けむしブーム。

砕は、夜一様の躾の結果で指でしかいけないこになってるといいとおもいます。

 

 

相互自慰みたいのが大好きです。