乱菊+七緒

松本副隊長と伊勢副隊長が言争いをしています。

「何よ!アンタなんて落花生の殻とか胡桃の殻とかが左右対称に割れたって悦に入ってる癖に!それで食べたくもないのに延々剥き続けてんじゃない、いつも」
「悦に入ってなんかいません!」
「嘘よ、ニヤついてるもの」

「…っ!そんな訳ないでしょう。だいたいそれを横からさらって食べる貴方は何なんですか!!」
「あたし?あたしは趣味の副産物を処分してあげる心優しい友達。アンタあーゆーの食べ過ぎるとお腹痛くするって言ってるからちょうどいいでしょ」

「………蟹は別です」
湯気を間に、美女ふたり。

 

 

 

(2011.10.21)


乱菊+七緒  -大きいつづらと小さいつづら

 

 雀のお宿で一夜を明かすと、お土産をもらえるという。

 子供向けの御伽噺らしく、きわめて単純な箴言が含まれている。即ち、「欲張りはいけません」。

 

 守るのが難しい戒めではない。少なくともわたしにとっては。欲が強いほうでもなし、希望と状況を両天秤にかけて計量するような行為は、調教されたわたしの理性の最も得意とするところだ。ただ、自分の意思と判断に基づいた最良の選択が、常に可能かといえばそうではない。だからわたしは自分の手に余るものを抱え込むことはしない。

「―――くださるという好意はたいへんに有り難いのですが、わたしはこれを担いで帰ることはできません。知らせもせずに、家を空けてしまいましたし、急がなければ」
「いーじゃない。重くないから持ってきなさいな」
「…結構です」
「またまたー遠慮しないで」

「いいえ。お気持ちだけで」

「あたしの気が済すまないんだもの」
 自分が提示しているのは遠慮でなく拒否なのに、なぜそれが通じないのか。
 かつてわたしに世話になったと名乗る""に、暮の杣道を助けられ、一夜の歓待を受けたのが昨夜。おおどかに笑う""は話し上手で里の事情にも明るく、屈託のない調子で、わたしが投げ与えた粗米や留守の間に室内へ入り込んで大きな猫に追い回された話などする。

 

 だから、宴はたいそう愉しかった。

 

 そうして明けてみれば、土産を持たせたい、という。

 常道どおり大小二つ用意されたつづら。なぜか大きいほうばかりを執拗にすすめられて、ならばいっそいらぬ、と断れば泣き落としが始まる。

「…十分に良くして頂きました。これ以上は―――」
 心苦しいですから、という言葉は遮られた。

「お願い」

 はじめてみる真摯な口調は、拒絶するにはあまりにひたむきだった。

 こうなると、抵抗するすべがない。

 結局は、飢えた雀に米を撒く程度にはお人よしなのだ、わたしは。お返しに、と差し出された好意を跳ねつけることなどできはしない。

「…………ありがとう、ございます」

 

 帰り着いて、つづらの蓋を開けてみれば、件の大雀が寝そべっていた。

「……………………」

「あら、着いたの」

「…………何をしてらっしゃるんです?」

つづらは少しも重くなかった。そしてこの""は山家の門口で寂しげに手を振ったのではなかったか。何故、ここにいる。

「んーだからお土産」

 なんということか。

「あたし今日からここに住むわね」

 

 絶句した後、叱り飛ばして懇願して無視して、それでも""を追い出すことは出来なかった。自分の手に余るものは、関わりの外において余計な波風を立てないようにしてきたのに。この生き物はわたしのテリトリー境界をやすやすと踏み越えてくる。

 

「………大きなつづらに入っているのは、妖怪じゃありませんでした?」

 騙したのか、と言外に責める。

「やぁだ、何言ってるのよ」

 屈託のない笑いが、予想もつかない騒動を引き起こすのにも、耐えられるようになってきてしまった。

「喋って笑って酒呑んで、そんなの雀じゃなくて妖怪って言うのよ」

 

「はじめからいなかったの。雀なんて」

 

 

 

乱菊*七緒  <下ネタ>

事後 

 

 

「あんまり、声出さないでください…」

シャワーにたつ前。気だるさのなかで、七緒はおずおず、といったふうに声をかける。

「ん」

しどけない乱菊は、自分がはるか及ばない色香を漂わせる。セックスの最中でさえも、姿態は美しく、そして楽しげでまるで映画を見るような。

「なんで?うるさかった?」

「そうじゃありません、ただ…」

何を言おうとしているのか、自分は。どう言いつくろったとしてもそれは、まずい。

「ただ…ごめんなさい、」

途方にくれる七緒に、乱菊はことさら優しい。腕を伸ばして髪をなでる。

「ただちょっと…」

「ただ、…その、えぇとですね、」

乱菊がだんだん飽きてきた。それも解る。

「えぇと、そう、その、いけないことをしている気分になるので………」

「…………」

「……………………………………………………」

「何だそんなこと」

あきらかな呆れをにじませて、乱菊は声を上げた。

(―――こんなおぼこい女だったかしら?)

ともあれ、彼女にとっては頭を悩ますほどのことでもない。

「わかった。善処するわ」

額にひとつキスを残して、立ち上がった。



(言えない)

豪快に素裸をさらしてバスルームに向かう乱菊を見送って、言いつくろった言葉の不自然さに脂汗を流す。それでも真実よりはマシなはずだ。

(言えない。洋ピン金髪巨乳系AVを連想するからやめて、なんて)

 

 

 

(四方に向かって土下座継続中)


乱菊+七緒 菩薩と章魚と小学生

今日は卯の花隊長主催のヨガ教室の日です。

「まずはストレッチから始めましょう」
講師も務める卯の花隊長は、いつもの通り笑顔です。並びいる生徒の顔がひどく緊張しているようなのは、気のせいでしょうか。
「―――まあ、砕蜂隊長はやはりお見事ですこと」

「ちょっと見てよ、ネムの前屈。タダモンじゃないわね」
勿論、目が届かないところで、手を抜く生徒もいます。
「あっはっは、七緒アンタ頭もカタいけど身体も堅いのね」
「うるさいですよ!あなただってろくに伸びてないじゃないですか」
「だってあたし胸がつかえるんだもの」
「…っ」
「―――あらあら、松本さん意外に出来てませんね」
のしっ
「い゛っ」
「いけませんよ、我々身体が資本なのですから。有事の際には柔軟なんてしている暇はないでしょう、普段から慣らしておきませんと」
のしのしっ
「痛っ!いだだだだだだだ!!ちょっ、まっ」
(…一応、「重い」とか怒鳴らない分別はあるのね)


「あー酷い目に遭ったわ…」
「…無駄に口ばっかり動かしてるからですよ」
「そーなんだけどさぁ…
―――うわっねぇ!ちょっと見てよ。ネムがとんでもないことしてるわよ」
「だからそれが―――
うわぁ」
「あの子身体どうなってんのかしら」
「砕蜂隊長が張り合っちゃって、あーあ」
「むしろ、柔軟とか要らなくない?」


笑顔で膝乗りしてくる卯の花隊長希望。

 

 


檜佐木と東仙

「今日は仮装する祭なんだそうですよ」
「祭?」
箸を止めて尋ね返す表情は穏やかで、端正に静かだった。その顔がどんなふうに変わるのか、下心があって水を向けたわけではないけれども。
(―――嘘ですやっぱ見てみたいです隊長の仮装)
どんなものを着たとしても鑑賞に値するだろうが、とりわけて望ましいのは…

東仙はと言えば、賛同すべきなのか、と生真面目に悩む。他人の願いには聡い男である。
「…仮装」
その鼻先で、さりげなさをかなぐり捨てて東仙を凝視する檜佐木。
「……わたしが色つきコンタクトを入れるとか?」
「それは…」
多分タブーだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2011.10.21)