願わくは花の下にて

東仙が再登場してたんですってね!!! 3月頃!!! まじか!

 

今知りました。。。一億人読者はもっと喜べばよいのに(棚上げか)

ノースリ羽織だったんですって!わあぉ!

 

六車拳西と同じ仕様…という点にちょっとこう引っ掛かりを覚えますね。引き継いだと顕すべきものがあったんだろうかとか。

 

 

 

……とか言ってる間に九番祭りだという噂を聞きつけて本誌覗いてきましたよ。

 

檜佐木よく言ったぁぁぁぁぁ!

これは回想シーンとか来るかもね!来週あたりね!!

そんで結局ものすごく落とされるかも知れんけどね!!(なにそのくぼてんてーに対する不信感)(だってそういうえげつなさがざんぷのざんぷたる所以・・・)

あ、blogタイトルですが、如月=2月、新暦3月くらいのつもりでつけました。

 

ということでちょっとした思いつき↓。

続くかも、というか何も始まってない系の過去話。昔書いて、しかも上げてない砕蜂過去話を下敷きにしてるこれ以上ないくらい不親切な設計。


「彼も丸くなったものだね」

 

藍染が常と変わらぬ笑顔で声をかけるのに、思わず顔を振り向けた。

後れた鬢の毛が、頬を打つ。

「―――ど」

どこがだ、と反射的に答えようとして、漸う思い留まる。―――何をそんなに慌てることがあるというのか。

「…東仙か。」

「そう…彼を見ていたと思ったけれど、違ったかな」

隊主会の後の、その年の新人が浅打を打ち交わす模範試合。

新人たちの質を計るうえで気を惹かれないこともないが、雑談が出る程度の冗漫さは否めない。

意図せずして気を散じていた己を指摘されて、砕蜂はすこしく気まずさを抱く。

のどかさをまとう目の前の男は、その物腰と裏腹に犀利な官吏だと聞く。そうでなくとも、先の己の振る舞いがそれを正しいと告げていよう。舌打ちをこらえて、瞼を伏せた。

「いや、その通りだ。

 …確かに変わったものだな。貴様の言うとおり」

嘘だった。

(奴は何も変わっていない)

藍染は、気に聡いだけで砕蜂が何を思ったかなど知るまい。ただ、場を持たせる言葉を用意した。それだけであれば言葉の中身など、何もなくていい、ただ、それを交わした、という事実さえあれば。

「彼とは昔馴染み?」

「いや、貴様のほうが詳しかろう」

如才なく言葉を続ける藍染に続いて、技場の向かいに視線を投げる。

 

話題に上る男は、戻った部下に優しげに声をかけている。

剝き出しの肩に、重なるものがある。

 

(あの肌だ)

決して珍しいものでもないけれど、見れば厭でも嘗ての主を思い起こさずにはいられない、褐色の肌。

あの騒擾の後謹慎が解けて、隊の外に出た。そのとき欠けた隊主の代わりに、隊長代理というおさまりの悪い立場で九番を率いていたのが、その男で。その肌のためにただ目に付いたに過ぎない。

副隊長という立場のまま、同じように頭目を欠いた扱い辛い集団を動かしていたた己にとって見れば、嫌でも目に付く人間だったというだけのこと。

無論、その肌に目を奪われたのは最初の一時だけで、砕蜂の恋うた放埓や強さは何処にもなかった。代わりに堅実な事務処理能力と有象無象を纏め上げる調整能力と。

生来の、と思える生真面目さを抑えつけて、前の隊長の磊落さと親しみを少しだけ真似ることで、反目しがちな荒くれた隊員たちをどうにかしてまとめている姿が目を引いた。前隊主の影を拭おうと、徹底した絶対的考課と相互監視の組織づくりをはじめた己とは全く違って、しかし同じく苦患に耐えて眉間に皺を刻んでいたと覚えている。

 

だからといって勿論業務の範囲を超えて言葉を交わしたわけでも、必要以上に親しんだわけでもなかった。互いに己について語ることは不得手で、謹慎明けの砕蜂は、そもそも他者との馴れ合いが監視者にどんな印象を与えるかについて極端に警戒していたせいもある。。

ただ狛村を間に少しだけ語らったことがあった。戦いに何を見出しているか、と。

平和であれ、と

そのときはとっさに、益体もない観念論かと嫌悪を抱きもしたが。 

けれど、続いた”故なくしてひとが喪われることがないように”という言葉と、掲げた理想に近づくための弛まぬ歩みと。そのくせすこしもその生き難さに頓着しない頑なさに、やがて嫌悪感は拭われた。

(―――理想といい夢想といい、しかしそれなくしてはこの男は生きられはせぬだろう。そして、ならば死ね、と切捨てない程度にはこの男を買っているのだ。わたしは)

右の掌、刀胼胝で左の手甲をなぞる。

隠密機動の常で、その後、東仙が知己を護邸の手によって亡くしたと知る機会があった。身上書に簡潔に記されたのは経過だけで、そのときの彼の思いを知るすべを持たない。

―――この男も、大事な何かを亡くしたのか。

感慨は、蘇った喪失の痛みとともに胸に落ちる。

 

記憶をたどる指の動きは、続く言葉によって留められた。

「腹を割って話してみれば、いい友人になれそうだね」

藍染は、己の抱く好意を砕蜂に分かとうとするように言葉を継ぐ。いかにも人好きのする口調に、砕蜂は調子を合わせることができない。

心外だ、と礼を失さぬように否定することができずに、ただ眉を跳ね上げて、笑顔を見返した。

「そうかな。

 君たちは似ているように思えるけど」

「―――まさか」

笑えなかった。ただ、正しい応えには、少し早すぎたかもしれない。

(奴とわたしは、違いすぎる)

比べられる程度には近くて、けれど対極にあるのものを求めているのだと。

けれど違いを見極めることを砕蜂はしたくなかった。喪失を、それは見つめることに他ならない。

 「そう意外がるものでもないよ。

 そうだ、今度場を設けよう。二人とも生真面目すぎるから、僕みたいな人間が間に入るといいかもしれない。

 ―――勿論無理は言わないけれどね」

さもおかしそうに言うのに、儀礼的な笑顔を返して技場に視線を戻した。歓声が大きい。

 

見れば、山本総隊長が歩み出るところだった。

『さても見事な試合、大儀であった。今年も期待が持てそうじゃの。

 だが、儂等のなかで戦うには、まだ青い』

双調の声は、聞く者の喉を縛る。その一瞥と霊圧に隊員たちがひるむのが見える。

(もう少しプレッシャーへの抵抗も覚えさせねばならんな)

新人たちは毎年補充され、そうして毎年欠けていく。質を保つだけでも容易ではない。零れ落ちていくものを惜しむことさえ許されないこの役目は、分かち合えない苦行に近い。

『なれば』

総隊長の声が一際高く張る。今日は随分と調子付いている。

『雛どもに手本を示してやろうぞ。霊力だけではない躰の使い方を見せてやろう程に』

(…よくない予感がする)

眉根を寄せた砕蜂の前、皺枯れたしかし太い腕を広げる。

『二番隊長、九番隊、前へ』

的中した。

―――此処数百年、二番隊と刑軍の関係は 常に表裏をなしてきた。隊主が刑軍団長を勤めるときにはなおさらそれが強まる。当然、白打や剣技であれ、その手の内を容易に晒すは法度。

普段であれば、それを慮って二番を前に引き出したりはしないのだが。

(…総隊長もよくよくスタンドプレイがお好きな)

砕蜂は溜息を吐いて、足を踏み出した。