砕蜂と東仙の遺骸のはなし
下顎の落ちた頭骨は、信じがたいほどに小さかった。
かろうじて残る靱帯が、触れるにつれて崩れる。汚穢と膏が指先に残った。
(これがあのおとこか)
砕蜂が嘘だと言いたいほどに、そこには何もなかった。頑なな意思も、静かな霊圧も、鋭いことばも、穏やかな笑みも。
ふと思いついて、眼窩に指を沈める。そのまま両のてのひらで包みあげると、やはりそれは軽かった。
(―――こんなものは知らない)
自分が盲だったならば。
今こうして触れれることで、生きていた東仙の面影を、このてのひらにおもいだせただろうに。
骸は何も残してはいなかった。